田原本町に伝わる昔話 - 第3話

田原本町に伝わる昔話のイラスト

蛇巻きの由来(広報たわらもと1989年5月号掲載)

 むかしむかし、今里の村に男の竜が住んでいました。村中の若い娘や赤子をとり、田畑を荒らして作物を食べつくし、村人を大変困らせていました。

 そんなとき、一人の旅の僧がとおりかかって、「五月五日の節句の日に、ショウブの葉で太刀(たち)をつくって家の入り口に飾ればよい」と教えて行きました。村人たちはそろってそのようにすると、さすがの竜もショウブの臭気(しゅうき)にまけて、村のなかの大きな榎の木に逃げ昇り、空高く去って行ってしまいました。それから今里の村は平和になったということです。

 その後、今度は、鍵の村に大きなムジナが出るようになりました。今里村の竜のように、人をとり田畑を荒らしました。そこへ天に昇ったかつての竜が降りて来て、村の鍵の辻のソノヤブというところに入りムジナを取り殺して、鍵の人々の苦しみを除いてくれました。 それで鍵はもとの平和な村に戻ったそうです。

蛇巻きのイラスト

 この話しの由来から、今里と鍵では毎年六月の第一日曜日(元は五月五日)に「蛇巻き」の行事が子供達の手で行われます。稲ワラと麦ワラで造られた蛇は、五穀豊穣と村人の幸せを祈って各家々を回り、通行人には巻き付いたりして、大変勇壮な行事です。今里の竜は昇り竜として、鍵のは下り竜として一年間まつられるのです。

 この行事を行うと水害や虫の害がなく、その年は適当な雨が降ってお米などの作物がたくさん出来ると伝えられています。

 この蛇巻きは、十三歳から十七歳の男の子が中心となって行う行事ですが、よく似た行事に、成人男子が行う矢部の「綱掛」という行事があります。五月五日のこどもの日に行われるもので、牛の版画とミニの農具を家々に配り、綱は新婚のお嫁さんに巻きついたりして、なかなかほほえましい行事です。

 綱は矢部の村の南寄り、綱掛の地にあるニレ(元はセンダン)の木に掛けられます。 このように古木の場所や小さな祠(ほこら)のある所は野神(のがみ)信仰の場所とされ、ハツオ・ハッタ・ハジョウなどと呼び、たたり地として今も田原本町には五十余りも残っています。野神は農業や牛馬の神として、古くから農民の信仰をあつめたのです。

流れ地蔵のはなし(広報たわらもと1989年7月号掲載)

 七月は子供達にとって楽しい月です。夏休みをひかえた十六日は「ごうしんさん」(太神宮)の日です。そして二十三日・二十四日はお地蔵さんの日です。お供えのお菓子をもらって、子供達ははしゃぎまわります。ではこれから、そのお地蔵さんの話をしましょう。

 松本の松本寺の前に、浮き彫りの石地蔵が祠られています。背丈は138センチメートルで鎌倉時代の作といわれています。

 このお地蔵さんは、松本の西側を流れる曽我川を流れて来た地蔵さんと伝えられ、「松本の流れ地蔵」と呼ばれて信仰を集めています。

流れ地蔵のイラスト

 仏教では、私たちがいま住んでいるところ(現世(げんせ))を「此岸(しがん)」といい、人が死んでから行くところ(後世(こうせ))を「彼岸(ひがん)」といいますが、松本の地蔵さんは、人間が死ぬと川向こうの岸へ、すなわち此岸から彼岸へ、その人を乗せて渡してくれる仏といわれています。こうした仏教の教えから、流れ地蔵の話が生まれたものと思われます。背中にある舟形光背(ふながたこうはい)も、こうした話の生まれる理由にもなったのでしょう。

 昭和六十年八月に、新しく地蔵堂が立て替えられて、今は他の石仏とともに祀られています。

 松本の地蔵盆は毎年八月二十四日に行われます。各家からお米を集めて粉にし、それをダンゴにして供えます。中米(ちゅうまい)や小米(こごめ)の多かった昔は、これらを唐白(からす)をふんで粉にしダンゴをつくりました。夏はモチに比べて日もちがよいこともあって、今も受け継がれています。

 松本では隣組を「地蔵組」と呼び、一組二十軒で組織されていて、地蔵を中心とした村の仕組みをみても、流れ地蔵によせる村人の心がうかがえます。 地蔵はインドでは神であり、中国ではこの世と冥界(めいかい)の間の無仏の世界で、衆生(しゅじょう)を救う仏であり、我が国に伝わると、地獄から衆生を救う仏となり、これが民間が流布(いふ)すると、この世の利益を授け、悩みを救う存在にまで変化しました。たとえば、安産や育児に関する子安地蔵・身代わり地蔵・水子地蔵・子守地蔵のほか、ホウソウ地蔵、延命地蔵、笠地蔵などきりがありません。八尾では雨地蔵といい、雨ごいの仏にもなっています。

 町内の地蔵盆はほとんどが七月ですが、松本のように八月に行うところも一部にあります。

 またこのころは「ナス観音ウリ地蔵」といって、昔は花が咲いてから採りごろ(ナスは十七・八日ごろ、ウリは二十三・四日ごろ)の目安にしていました。

次回は「矢継ぎの森のはなし」「雷の話〈いろいろ〉」です

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