田原本町に伝わる昔話 - 第15話
松の下の塚(広報たわらもと1992年1月号掲載)
大字多(おお)と橿原市西新堂との間に字「松の下」という所があります。この地に伝わる話に次のような記録があります。昭和十四年十月発刊の『磯城(しき)』第二巻第五号(県立図書館蔵)に掲載されたもので、当時多小学校教諭の岸上秀雄先生が書かれたものです。
古老傳説(ころうでんせつ)
小杜(こもり)神社(1)を去る五町東南中街道の西、磯城郡多村字西新堂(2)の東、字松の下に拾坪の古墳墓(3)を存す。形長形にして芝生なり。
往時、其地に老松ありて、その枝葉一町歩にわたる故に「松の下」の称ありき。今を去る五百年前、寺川出水の為に暴水提を崩し、松樹流失して其の舊(むかし)形を失へりといへども、今尚松の下の称ありて多領に属す。その西に一小部落ありて西新堂と言ふ。
その古老の傳(つた) ふる所によれば松の下の墳墓は、太(おお)の大人(たいじん)を南向きに埋りたるを以て、西新堂の住民の死を送るに、必ずその前方約一町南方を通ずるを免れず。故に往古よりその全面を通ずるは畏れ多きを以て、前方に到りたる時、注連(ちゅうれん・しめかざり)を輪とし、之を奉りて神慮(しんりょ・神のみこころ)を慰め奉りたる例なりしが、明治五・六年のころより中絶して、以後行はれざるに至る。
而(しこう)して松の下に続きて「大上院」の字ありて、凡(およそ)三十坪の荒れ地あり、五輪塔二個を存す。何れも文字なくして奈良朝時代のものと傳ふ。この地太朝臣安麻呂(おおのあそんやすまろ)(4)の邸跡なりと言ふ。
又その地に続きて「寺垣内(かいと)」及び「北垣内」の地字残す由、是観之(これをみるに)盖(けだしくも・ひょっとして)大上院は安麻呂卿の邸跡にして、松の下は安麻呂卿の墳墓なるやもしれぬ。
(1)小杜神社
多神社の南側にあり、旧県社。太安万呂をまつっています。
(2)西新堂
旧多村から昭和三十二年に橿原市へ境界変更されました。
(3)松の下の古墳墓
明治二十六年調査の『大和國古墳墓調査書』(由良大和古代文化研究協会刊)に絵図があります。
(4)太朝臣安麻呂
奈良時代前期の学者。古事記などを撰進。
民間伝承-1-(広報たわらもと1992年2月号掲載)
昔から口から口へ言い伝えられ、今も生活の中に残されているものがあります。これを「民間伝承」と言い、田原本町の『郷土の歴史教室』であげていただいたものを紹介しましょう。
一つ一つの意味については、読者で考えてみてください。
- ご飯をこぼすと目がつぶれる。
- 夜、家の中を掃くとゲンが悪い。
- やかんの蓋を開けて湯を沸かしたり、湯を注ぐとゲンが悪い。
- ウソをつくと閻魔さんに舌を抜かれる。
- 箸ではさみ合うと仲が悪くなる。ゲンが悪い。
- 仏壇に裸で詣るとバチがあたる。
- ご飯を食べて伸びをすると腋の下へご飯が入る。
- 夜、口笛を吹くと蛇が出る。
- ご飯を食べて寝ると牛になる。
- 蛇の夢を見ると良いことがある。ただし、その話を人に言うと効果は無くなる。
- 野菜を食べないと血の筋が切れる。
- 夜、つめを摘むと親の死に目に会えない。
- 茶わんの音が屋根の棟に聞こえたら七代貧乏する。
- めでたい時に炊く赤飯の小豆が割れると、腹切れと言ってゲンが悪い。
- ご飯に箸を立てるとゲンが悪い。
- ツバメが巣を造るとその家は栄える。
- 水に湯を入れるとゲンが悪い。
- 覆物を新しくおろす時は、炊事場か井戸端を三回往復するとよい。
- 敷居の上にのぼると父の頭にのぼるのと同じ。
- 新しく履物をはく時は午前中にする。午後はゲンが悪い。
- 寝るときは履物をそろえよ。でないと泥棒が入ってくる。
- 一膳飯はゲンが悪い。
- 朝茶柱が立つとゲンがよい。
- 初物を食べると七十五日長生きできる。
- お伊勢参りは夫婦では行かない。
- 娘三人持てば棟が落ちる。
- 日表に分家させると本家が負ける。
- 養子三代つづくと長者になる。
- 遠い親類より近くの他人。
- 親類は泣きより他人は食いより。
民間伝承-2-(広報たわらもと1992年3月号掲載)
社会生活を営むうえで、人々は相互の生活秩序を保つために、たくさんの知恵を発展させてきました。それは家族生活の中であったり、近所の付き合いであったり、農作業や四季折々の自然の変化や天候の中にも生み出されて、それは今も伝えられ残されているものが少なくありません。
- 雲が奈良参りすると雨になる。
- 南天を植えると「難を転じる」といって良い。
- 朝虹川渡りするな。
- 子どものほしい家にザクロの木を植えると子どもが産まれる。
- 朝雷川越えするな。
- 鬼門の方向に柊を植えると「災いを転じる」といってよい。柊を「鬼の目つき」ともいう。
- 朝東の空が赤いのは天気がくずれる。
- 庭の松の木が枯れるとゲンが悪い。
- 朝雨心配するな。
- 屋根より高い木を本屋の南側に植えると家によくない。
- 夕焼けは明日天気になる。
- 庭に藤の木を植えると「不事いる」といって植えない。
- 夕方の虹は日照りがつづく。「夕虹二十日の日照り」。
- 蘇鉄を植えると「金食う」といって嫌う。
- 彼岸仏はかたぐるし。(彼岸の入りに雨が降ったら雨がつづく)。
- キョウチクトウは家には植えない。
- 彼岸やけは釈迦も知らん。(九月の彼岸のころでも日やけになる時がある)。
- ゲンのよいのは樫・花梨・千両・万両・アリドオシ。「よそへ貸しても家では借りん 千両 万両 有りどおし」
- 新米食うて水かえる。
- 屋敷に茄子を植えるとゲンが悪い。
- 雲行きかまわん。五月六月東風天気。
- 畑の北枕に茄子を植えるとゲンが悪い。
- 日やけのイモはよう煮える。
- 牛の夢を見ると神信心が足りないという。
- しびしび雨でも降りゃぬれる。
- 馬の夢を見ると風邪をひく。
- 庭に楠の木を植えるとよくない。
- 目ぼ(めばちこ)が出来たらツゲのクシを畳にこすって患部に当てると直る。又和服のツマ先で三回こすると直る。
- アジサイの花を便所につるしておくとお金に不自由しない。また中風にならない。ともいう。
次回は『民間伝承』(つづき)です
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